大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和58年(行ウ)6号 判決 1991年1月28日

兵庫県芦屋市三条町二八番一号

原告

延原千恵子

右訴訟代理人弁護士

大西佑二

明尾寛

同市公光町六番二号

被告

芦屋税務署長 堀口賢太郎

右指定代理人

白石研二

国府寺弘祥

野口成一

石川幸助

山越基博

主文

本件訴えのうち、昭和五二年分ないし昭和五五年分の更正処分及び同処分と同日になされた賦課決定処分の各取消を求める部分を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

公訴費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が、原告に対し、昭和五六年三月一一日付けをもつてなした昭和五二年所得税の再更正処分(昭和五五年九月三〇日付けでなした同年分の更正処分を含む。)並びに昭和五二年分所得税について昭和五五年九月三〇日付け及び昭和五六年三月一一日付けをもつてなした過少申告加算税の各賦課決定処分、昭和五七年二月二七日付けをもつてなした昭和五三年分ないし昭和五五年分所得税の各再更正処分(昭和五七年一月一三日付けでなした同三か年分の各更正処分を含む。)並びに同三か年分所得税について昭和五七年一月一三日付け及び同年二月二七日付けをもつてなした過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の申立て

本件訴えのうち、昭和五二年分の昭和五五年九月三〇日付け賦課決定処分並びに昭和五三年分ないし昭和五五年分の更正処分及び昭和五七年一月一三日付け賦課決定処分の各取消しを求める部分を却下する。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  本案の答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和五二年分ないし昭和五五年分の所得税について、原告のした各確定申告、これに対する被告の各更正、各再更正及び各過少申告加算税の賦課決定(以下、右各更正を「本件各更正」と、右各再更正を「本件各再更正」と、本件各再更正に付随する右過少申告加算税の賦課決定を「本件各決定」と、本件各再更正に付随する右各過少申告加算税の賦課決定を「本件各再決定」という。)、原告の異議、国税不服審判所長の審査裁決の経緯は、別表一ないし四のとおりである。

2  しかし、本件各更正及び本件各再更正のうち、各確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定した違法なものであり、したがつて、本件各更正及び本件各再更正を前提とした本件各決定及び本件再決定も違法である。

よつて、本件各更正、本件各再更正、本件各決定及び本件各再決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1は認め、2は争う。

三  被告の主張

(本案前の申立ての理由)

本件各再更正により、本件各更正(昭和五二年分を除く。)及び本件各決定は消滅した。

(本案の主張)

1 譲渡所得について

(一) 譲渡所得の生じた経緯

訴外延原観太郎(以下「観太郎」という。)が昭和四七年七月一七日に死亡したため、相続人である原告及び訴外延原鈴子(以下「鈴子」という。)、訴外延原星夫(以下「星夫」という。)、訴外延原久雄(以下「久雄)という。)の四名は観太郎の遺産を共同相続した。

そして、原告及び鈴子は昭和四八年一月一六日に、星夫及び久雄は同月一七日に、それぞれ相続税の申告書を被告に提出した。

また、原告を含む共同相続人(以下「相続人」という。)は、同年一月一七日に相続税延納申請書兼徴収猶予申請書(以下、「延納申請書」という。」を提出し、その担保に提供するため別表五の2に掲げる不動産(以下「本件不動産」という。」の(1)および(3)を含む七物件について同三月二六日、本件不動産(2)及び(4)を含む一七物件について同月二三日に、それぞれ相続人の持分を各四分の一として相続を原因とする所有権移転登記をした。

その後、相続人は、同年八月二日に相続税の修正申告書及び、右修正申告に係る延納申請書を被告に提出した。

ところが、星夫は相続延納申請の許可を受けたにもかかわらず、第一回分納を昭和四九年一月一七日の期限までに履行しなかつたため、被告は、同年三月二〇日に右延納許可を取り消した。

星夫はその後も相続税を滞納したため、大阪国税局長は、昭和五二年四月六日に延納担保物であつた本件不動産を差し押さえ、これについて本件不動産(1)ないし(3)については相続人に対し、また本件不動産(4)については鈴子を除く相続人及び延原倉庫株式会社に対し、本件不動産の各持分四分の一について差し押さえたことを明記した差押書を同月四日付けで送付した。

大阪国税局長は、右延納処分のため公売通知書を原告らに送付し、別表五2譲渡価額の内訳のとおり本件不動産を公売したものである。

大阪国税局長は、原告の公売代金六四二九万五五七五円(公売代金総額二億五七一八万二三〇〇円の四分の一相当額)から滞納処分費一〇万六八一五(滞納処分費の総額四二万七三〇〇円の四分の一相当額)を差し引き、残額を物上保証人である原告が負担する保証債務として、星夫の国税債務三〇七九万九一九二円に、また相続税法三四条一項に規定する連帯納付義務として星夫の国税債務五一九万〇四三八円に順次充当したところ、本件不動産(4)の公売代金から二八一九万九一二〇円の残余配当金が生じた。

さらに、大阪国税局長は、原告の右配当残余金二八一九万九一二〇円に対する支払請求権を差し押さえ、原告の昭和五〇年分の所得税の滞納税金にその金額を充当した。

なお、公売物件配当計算は別表六のとおりであり、大阪国税局長は、原告に対し配当計算書及び同附属書でこれを通知した。これに対し、原告は本件不動産(4)に係る右書類に同意することを明らかにした書面を提出している。

(二) 本件不動産についての原告の持分

相続人らは、前記公売に先立つて、本件不動産について、各自の所有持分をいずれも四分の一とする旨の合意をした。

(三) 所得税法九条一項一〇号該当性

原告は、原告を含む相続税の連帯納付義務ある者に資力がなく所得税法九条一項一〇号に該当すると主張するようであるが、同法に規定する「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合とは、債務者の債務超過の状態が著しく、その者の信用、才能等を活用しても、現にその債務の全部を弁済するための資金を調達することができないと認められる場合をいうところ、原告及び星夫は別表七の相続税申告額のとおり、多額の資産を相続しており、しかも、原告は昭和五〇年七月一一日遺産の一部である大阪市北区北錦町一番の一外四筆の土地を訴外河野利貞へ一〇億四九〇〇万円で売却し、さらに原告固有の財産も所有しているから、到底右場合に該当するものではなく、いわんや原告が換価資産を持たないということはできない。

以上のとおり本件の場合、所得税法九条一項一〇号に規定する資力喪失した場合に該当せず、本件譲渡所得は非課税所得でないことは明らかである。

2 不動産所得について

(一) 不動産所得が生じた経緯

(1) 観太郎は、次の通りの遺言書を残したが、延原アヤは、観太郎より先に死亡した。

相続人である五名の者の相続分を次のとおり指定する。

(一) 妻延原アヤの相続分は全資産の二〇分の七とする。

(二) 長女延原鈴子は全資産の二〇分の三とする。

(三) 長男延原星夫は全資産の二〇分の三とする。

(四) 次女千恵子は全資産の二〇分の七のとする。

(五) 次男延原久雄は、現在に至るまでの間に既に応分以上の財産を取得して居るので同人の相続分はないものとする。

原告ら四名は、相続分につき合意に至らないまま、原告は、昭和四八年八月二日、原告の相続分を前記遺言による指定相続分に基づいて算出した八〇分の三五とした修正申告書を被告に提出した。

(2) 観太郎の遺産の中には、観太郎の主宰していた訴外延原倉庫株式会社(以下「延原倉庫」という。)への賃貸物件(物件の明細、賃貸料等については、別表八ないし一一のとおり)が含まれていた。

(3) 延原倉庫は、支払うべき賃借料から固定資産税等の立て替えた経費を差し引いた残金を、大阪法務局へ供託している。

(4) 延原倉庫は、原告らから賃借している物件のうち、次の一三物件についてはその一部しか賃借していないにもかかわらず固定資産税等金額を立替支払していたものである(面積の単位は平方メートル)。

<省略>

したがって、各係争年分の不動産所得の必要経費に算入される固定資産税等の金額(別表八ないし一一記載金額)は次の通りである。

順号1、2の物件

<省略>

順号10~20の物件

<省略>

(二) 原告の昭和五二年分不動産所得金額の計算は次のとおりである。

<省略>

(1) 総収入金額の内相続財産分

ア 別表八の順号1ないし20272832及び33の各物件(別表八のBグループ)について、原告の持分は前記のように八〇分の三五であるから、原告の収入すべき金額は、右各物件から生じた四三三万一〇〇五円(別表八のBグループの賃料の合計額)の八〇分の三五に相当する一八九五万七三一四円である。

イ 別表の順号21ないし2629ないし31の各物件(別表八のAグループ)の持分四分の一について、鈴子は、昭和五〇年一二月二二日に延原倉庫へ譲渡したので、延原倉庫は残りの四分の三相当に対して賃借料を原告に支払ついるものである(別表八の賃料欄表示の金額)。

したがつて、右賃貸料は、前記原告、星夫及び久雄の各持分から三五対一九対七の比率で右各人に按分されるのである。

また、別表八の順号21ないし26の各物件の持分四分の一が原告によつて昭和五〇年七月一一日に訴外河野利貞(以下「河野」という。)へ譲渡されている。

(ア) 別表八の順号21ないし26の各物件から生じた賃貸料に係る原告の持分は、前述の六一分の三五<省略>から右賃貸料に係る河野の持分を差し引いた持分である。ところで、右物件に係る河野の持分は四分の一であり、右物件の賃貸料は、全体の四分の三相当に対して支払われているので、河野が取得すべき賃貸料は、右賃貸料の三分の一相当となる。

したがつて、原告の持分は一八三分の四四(六一分の三五から三分の一を控除した持分)であり、原告の賃貸料は、右各物件から生じた賃貸料二三五八万六〇二四円の一八三分の四四に相当する五六七万九五六円となる。

(イ) 別表八の順号29ないし31の物件に係る原告の賃貸料は、右各物件から生じた賃貸料九一〇万二〇〇〇円に前記の按分による持分六一分の三五を乗じた五二二万二四五九円である。

(2) 必要経費の内相続財産分

ア 固定資産税等の管理費用

(ア) 別表八のBグループの物件に係る固定資産税等の管理費用は一六七三万七三五二円であるところ、原告の右各物件に係る持分は八〇分の三五(前記(1)アと同じ)であるから、原告の負担金額は右金額の八〇分の三五に相当する七三二万二五九二円である。

(イ) 別表八のAグループの順号21ないし26の各物件に係る固定資産税等の管理費用は、一八五三万六四四〇円であり、原告の負担金額は、右金額に対する原告の持分一八三分の四四(前記(1)イ(ア)と同じ)に相当する四四五万六八四九円である。

(ウ) 別表八のAグループの順号29ないし31の各物件に係る固定資産税等の管理費用のうち、順号31の物件の右費用について、延原倉庫の回答によると〇円であるが同法人は、別途支払つている。

順号31の物件の四分の三が原告らの所有物であるから、当該物件の固定資産税等金額四万八九二〇円の四分の三相当が、不動産所得の経費となる。

したがつて順号29ないし31の各物件に係る固定資産税等の管理費用は、二九万七七三〇円であり、原告の負担金額は、右金額の六一分の三五(前記(1)イ(イ)と同じ)に相当する一七万八二九円となる。

イ 減価償却費

別表八の順号29及び30の建物(倉庫)は、それぞれ昭和四〇年に一八四〇万六八一三円で、昭和四一年に九三〇万円で取得された物件であり、Aグループに属するため、その減価償却費は、次のとおりである。

(ア) 別表八の順号29の減価償却費は四四万一九九〇円である。

法定耐用年数 一六年

償却率 〇・〇六二

償却計算の基礎となる金額 取得価額の九〇パーセント

したがつて、減価償却計算の算式は次のとおりである。

算式 <省略>

(イ) 別表八の順号30の減価償却費についても同様の計算となり、その金額は、二二万三三一五円である。

算式 <省略>

(ウ) 別表八の順号31の建物(倉庫)は、延原倉庫が昭和三八年一月三一日に新築した後、昭和四二年四月二八日観太郎ヘ一九七万二五九三円で譲渡した物件であるから、次のとおり、中古資産の法定耐用年数は一二年となり

新築物件の法定耐用年数 一六年(一九二月)

経過年数 約四年三ヶ月 (自昭三八・一・三一 至昭四二・四・二八 五一月)

右物件の法定耐用年数 一二年

算式 192月-51月+51月×0.2-151.2月

151.2月≒12年7月‥12月(1年未満切捨て)

したがつて、右物件の減価償却費は六万三四一〇円となる。

算式 <省略>

(エ) その他の建物及びクレーンはいずれも耐用年数を経過しているので、減価償却の計算はできない。

(3) 不動産所得の金額

前記表より、原告の昭和五二年分不動産自得の金額は総収入金額三〇三九万七七七三円から必要経費一三六六万三八九五円を控除した一六七三万三八七八円である。

(三) 原告の昭和五三年分不動産所得金額の計算は、次のとおりである。

<省略>

(1) 総収入金額の内相続財産分

ア 別表九の順号1ないし20272832及び33の各物件(別表九のBグループ)から生じた賃貸料のうち、原告の収入すべき金額は昭和五二年分と同額の一八九五万七三一四である。

イ 別表九の順号21ないし26の各物件から生じた賃貸料のうち、原告の収入すべき金額は、昭和五二年分と同額の五六七万〇九五六円である。

ウ 別表九の順号29及び30の各物件について、原告は、右各物件の四分の一を、昭和五三年四月一五日に河野に譲渡しているから、右各物件から生じた賃借料のうち、原告の収入すべき金額は次のとおりである。

(ア) 昭和五三年一月一日から同年四月一五日までの間における原告の収入すべき金額は一三〇万六〇五一円である。

算式 (順号29.30.31の収入金額)(順号31の収入金額)

9,102,000円-1,297,669円=7,804,331円

<省略>

(イ) 昭和五三年四月一六日から同年一二月三一日までの間における原告の収入すべき金額は、一三二万九一五二円である。

算式 <省略>

以上のとおり、(ア)、(イ)、の合計金額二六三万五二〇四円となる。

エ 別表九の順号31の物件に係る原告の持分は前記(二)(1)イ(イ)で述べたように六一分の三五であるから、右物件から生じた賃貸料一二九万七六六九円

(順号29.30.31の賃料)

<省略>

の六一分の三五に相当する七四万四五六四円である。

(2) 必要経費の内相続財産分

ア 固定資産税等の管理費用

(ア) 別表九のBグループの物件に係る固定資産税等の管理費用は、二〇五三万四一二四円であり、原告の負担金額は、右金額の八〇分の三五(前記(二)(1)アと同じ)に相当する八九八万三六八〇円である。

(イ) 別表九の順号21ないし26の各物件に係る固定資産税等の管理費用は、二〇八四万〇二八〇円であり、原告の負担金額は、右金額の一八三分の四四(前記(二)(1)とイ(ア)と同じ)に相当する五〇一万〇七七八円である。

(ウ) 別表九の順号29及び30の各物件に係る固定資産税等の管理費用は二七万七三六〇円であり、原告の負担金は次のとおりである。

A 昭和五三年一月一日から同年四月一五日までの収入に対応する右管理費用の金額は四万六四一六円である。

算式 <省略>

B 昭和五三年四月一六日から同年一二月三一日までの収入に対応する右管理費用の金額は四万七二三七円である。

算式 <省略>

以上のとおり、A、Bの合計金額九万三六五三円となる。

(エ) 別表九の順号31の物件に係る固定資産等の管理費用は三万六六九〇円<省略>であり、原告の負担金額は、右金額の六一分の三五(前記(二)(1)イ(イ)と同じ)に相当する二万一〇五二円である。

イ 減価償却費

(ア) 別表九の順号29の減価償却費は次のとおりである。

A 右物件の四分の一(前記(1)ウのとおり)相当に係る昭和五三年一月一日から同年四月一五日までの期間に対応する減価償却費は、八万五五九二円である。

算式 <省略>

ちなみに、一か月未満は一か月に切り上げて期間計算する。

B 右物件の四分の三の、一八三分の四四(前記(二)(1)イ(ア)に同じ)相当に係る昭和五三年一月一日から同年一二月三一日までの期間に対応する減価償却費は、一八万五二一五円である。

算式 <省略>

以上のとおり、A、Bの合計金額二七万〇八〇七円となる。

(イ) 同様に別表九の順号30減価償却費も次のとおりである。

A 右物件の四分の一(前記(ア)Aと同じ)相当に係る昭和五三年一月一日から同年四月一五日までの期間に対応する減価償却費は、四万三二四五円である。

算式 <省略>

B 右物件の四分の三の、一八三分の四四(前記(二)(1)イ(ア)に同じ)相当に係る昭和五三年一月一日から同年一二月三一日までの期間に対応する減価償却費は、九万三五八〇円である。

算式 <省略>

以上のとおり、A、Bの合計額一三万六八二五円となる。

(ウ) 別表九の順号31の減価償却費は、昭和五二年分と同額の六万三四一〇円である。

(3) 不動産所得金額

前記表より、原告の昭和五三年分不動産所得の金額は、総収入金額二八五五万五〇八二円から必要経費一五七二万四〇四五円を控除した一二八三万一〇三七円である。

(四) 原告の昭和五四年分不動産所得金額の計算は次のとおりである。

<省略>

(1) 総収入金額の内相続財産分

ア 別表一〇のBグループの各物件から生じた賃貸料のうち、原告の収入すべき金額は、昭和五二年分と同額の一八九五万七三一四円である。

イ 別表一〇の順号21ないし2629及び30の各物件から生じた賃貸料三一三九万〇三五五円のうち、原告の収入すべき金額は、右金額の一八三分の四四(前記(二)(1)イ(ア))に相当する七五四万七四〇七円である。

ウ 別表一〇の順号31の物件から生じた賃貸料のうち、原告の収入すべき金額は昭和五三年分と同額の七四万四五六四円である。

(2) 必要経費の内相続財産分

ア 固定資産税等の管理費用

(ア) 別表一〇のBグループの物件に係る固定資産税等の管理費用は、二二五二万八一五二円であり、原告の負担金額は、右金額の八〇分の三五(前記(二)(1)アと同じ)に相当する九八五万六〇六七円である。

(イ) 別表一〇の順号21ないし26、29及び30の各物件に係る、固定資産税等費用は、二三一一万四六五〇円であり、原告の負担金額は右金額の一八三分の四四(前記(二)(1)イ(ア)と同じ)に相当する五五五万七六二一円である。

(ウ) 別表一〇の順号31の物件に係る固定資産税等の管理費用は昭和五三年分と同額の二万一〇五二円である。

イ 減価償却費

(ア) 別表一〇の順号29の減価償却費は、一八万五二一五円である。

算式 <省略>

(イ) 別表一〇の順号30の減価償却費は、九万三五八〇円である。

算式 <省略>

(ウ) 別表一〇の順号31の物件について、前記(二)(2)イ(ウ)から昭和五四年四月二八日に耐用年数(一二年)の全期間が経過することになる。

そして、耐用年数の全期間を経過した後も、利用されている事業用資産について更に残存価額(取得価額の一〇パーセント)の二分の一相当額を減価償却費として計上し得るので、右物件に係る減価償却費は次のとおりである。

A 昭和五四年一月一日から同年四月二八日(取得年月日昭和四二年四月二八日・法定耐用年数が一二年であるので、残余耐用年数は、同五四年四月二八日までの三月間である。)の減価償却費は一万五八五三円である。

(一年分の減価償却費)

算式 <省略>

B 次に残存価額(取得価額の一〇パーセント)の二分の一相当額は四万二四四三円である。

(取得価額)

算式 <省略>

以上のとおり、A、Bの合計金額五万八二九六円となる。

(3) 不動産所得金額

前記表より、原告の昭和五四年分不動産所得の金額は、総収入金額二七七九万六三二九円から必要経費一六九八万〇五九一円を控除した一〇八一万五七三八円である。

(五) 昭和五五年分不動産所得金額の計算は次のとおりである。

<省略>

(1) 総収入金額の内相続財産分

ア 別表一一の順号1ないし20、32及び33の各物件から生じた賃貸料は、三四九八万九八〇五円であり、原告の収入すべき金額は右金額の八〇分の三五(前記(二)(1)アと同じ)に相当する一五三〇万八〇三九円である。

イ 別表一一の順号27及び28の各物件について原告は、右各分限の四分の一を昭和五五年一一月一五日に河野へ譲渡しているから、右各物件から生じた賃貸料のうち、原告の収入すべき金額は次のとおりである。

(ア) 右各物件に係る昭和五五年一月一日から、同年二月一五日(一〇・五月)の賃貸料は三一九万三一一五円である。

算式 <省略>

(イ) 右物件に係る昭和五五一一月一六日から同年一二月三一日(一・五月)の賃貸料は一九万五四九六円である。

算式 <省略>

以上のとおり、(ア)、(イ)、の合計金額三三八万八六一一円となる。

ウ 別表一一の順号21ないし26、29及び30の各物件から生じた賃貸料三一三九万〇三五五円のうち、原告の収入すべき金額は、右金額の一八三万分の四四(前記(二)(1)イ(ア)と同じ)に相当する七五四万七四〇七円である。

エ 別表一一の順号31の物件から生じた賃貸料のうち原告の収入すべき金額は、昭和五三年分と同額の七四万四五六四である。

(2) 必要経費の内相続財産分

ア 固定資産税等の管理費用

(ア) 別表一一の順号1ないし20、32及び33の各物件に係る固定資産税等の管理費用は、二四〇七万三〇九七円であり、原告の負担金額は右金額の八〇分の三五(前記(二)(1)アと同じ)に相当する一〇五三万一九八〇円である。

(イ) 別表一一の順号27及び28の各物件について、前記(1)で述べたように原告が一部譲渡しているので、右各物件に係る固定資産税等の管理費用は、次のとおりである。

A 右各物件に係る昭和五五年一月一日から同年一一月一五日までの一〇・五月分に相当する固定資産税等の管理費用は、一一万九五六八円である。

算式 <省略>

B 右各物件の昭和五五年一一月一六日から同年一二月三一日までの一.五月分に相当する固定資産の管理費用は、七三二一円である。

算式 <省略>

以上のとおり、A、Bの合計金額一二万六八八九円となる。

(ウ) 別表一一の順号21ないし26、29及び30の各物件に係る固定資産等の管理費用は二三一一万六五〇円のうち、原告の負担金額は、右金額の一八三分の四四(前記(二)(1)イ(ア)と同じ)に相当する五五五万七六二一円である。

(エ) 別表一一の順号31の物件に係る固定資産等の管理費用昭和五四年分と同額の二万一〇五二円である。

(3) 減価償却費

別表一一の順号29及び30の各物件に係る減価償却費は、昭和五四年分と同額の一八万五二一五円、九万三五八〇円であり、合計二七万八七九五円となる。

(4) 不動産所得金額

前記表より、原告の昭和五五年分不動産所得の金額は、総収入金額二七五三万五六六五円から必要経費一七七二万五〇九七円を控除した九八一万〇五六八円である。

(六) 各係争年分に係る不動産所得の被告主張金額と再更正金額とは次のとおりであるところ、この範囲内でなした本件各再更正は適法であり、また、原告が昭和五三年分ないし昭和五五年分の不動産所得を申告しなかつたことについて、何ら正当な理由はないので、同年分の本件各再決定に違法はない。

<省略>

四  被告の本案の主張に対する認否

1のうち、(一)は認め、(二)は否認、(三)は争う。2(一)のうち、(2)及び(4)は不知。(1)及び(3)は認める。2の(二)ないし(六)のうち具体的事実の主張は、明らかに争わない。

五  原告の反論

原告が昭和四八年八月二日に被告に対し修正申告書を提出したのは、大阪国税局の担当職員八浜集の脅迫によるものであつた。

六  原告の反論に対する認否

否認する。

第三証拠

証拠は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  一部却下の理由

増額再更正処分は再更正処分とは別個の処分であり、更正処分は後になされた増額再更正処分により消滅したものと解すべきであるから、原告が取消しを求める本件各更正とこれに付随する本件各決定は消滅したというほかなく、結局、本件訴えのうち、本件各更正及び本体各決定の取消しを求める部分は、その対象を欠くので、不適法である。

二  請求の原因1(処分・裁決の経緯)については、当事者間に争いがない。

三  本件各再更正の適法性

1  譲渡所得について

(一)  被告の本案の主張1(一)(譲渡所得の生じた経緯)については、当事者間に争いがない。

(二)  公売に先立つ原告の持分に関する合意について

右争いのない事実のとおり、原告ら相続人は本件不動産の自己の持分四分の一につき、相続税の延納担保のため、抵当権を設定しており、自己の持分であつて初めて有効に抵当権を設定することができることに鑑みると、原告ら相続人は、本件不動産の持分を四分の一とする旨の意思を表示したものと解すべきである。乙第一二号証(覚書)の記載は、後日相続分が確定した際、これと前記持分四分一との不一致が生じたときは、遺産分割のときに清算することを確認したものと解され、前記認定を何ら左右するものではない。

(三)  所得税法九条一項一〇号該当性について

成立に争いのない乙第一号証(相続税の修正申告書)によれば、原告は、別表七のとおり、納付税額を上回る財産を相続により取得したことが認められる。よつて、原告が、「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」に該当するものとは認められない。

2  不動産所得について

(一)  不動産所得が生じた経緯について

(1) 被告の本案の主張2(一)(1)(遺言書に基づく修正申告)については、当事者間に争いがない。原告は、右修正申告は大阪国税局職員の脅迫による旨主張し(原告の反論)、原告本人はこれに沿う供述をするけども、右職員の特定をはじめ原告の右供述自体あいまいな点が多いこと、原告が右修正を自主的にしない場合、被告は、自己の調査に基づき職権で更正しうる(国税通則法二四条)ことから、被告あるいは、国税局の担当職員はあえて原告を脅迫してまで右修正申告を強いる理由がないことに鑑み、原告の右主張は採用することはできない。

(2) 被告の本案の主張2(一)(3)(賃料の供託)については、当事者間に争いがない。

(3) 賃貸借について

成立に争いがない甲第二二号証の一ないし一〇、第二九号証、乙第一号証、第一五号証、第二六ないし第二八号証、証人延原久雄の証言及びこれにより成立が認められる乙第三号証、第四号証、第一七号証の一ないし五、前記賃料の供託の事実によれば、観太郎は、生前、延原倉庫に対し、土地、建物等を賃貸していたこと、その賃貸の対象、賃料、対象物件の固定資産税額は、別表八ないし一一記載のとおりであると認めることができる。

(4) 右の認定した賃貸物件の公簿面積、賃貸面積及び固定資産税額からすると、被告の本案の主張2(一)(4)(過立替分の清算)の事実を認めることできる。

(5) 不動産所得の発生

よつて、原告は、観太郎の賃貸人としての地位を相続によつて相続分の割合によつて継承したものというべきであるから、右賃料の取得をもつて不動産所得(所得税法二六条一項)があつたことになる。なお、相続人間で右賃貸権の対象物件を含む相続財産の帰属についての争いが未決着であることを理由に所得税の課税を留保することは、納税義務者の恣意を許容し、課税の公平を著しく害することになるから、許されないと解すべきである。

(二)  昭和五二年分ないし昭和五五年分不動産所得金額

被告の本案の主張2の(二)ないし(五)(右金額の算定過程)中の具体的事実については、原告は明らかに争わないから自白したものとみなし、これに前(一)項で確定した事実を総合すると、昭和五二年分ないし昭和五五年分の不動産所得金額を、被告の本案の主張2(六)の被告金額のとおり、算出することができる。

3  まとめ

以上によれば、譲渡所得金額は昭和五二年分の本件再更正によるものと同額であると認められ、不動産所得金額は、昭和五二分年ないし昭和五五年分の各年分を通じて、本件各再更正によるものを上回ることが認められ、その余の点については原告は争わず、また違法な点は見当たらないから、本件各再更正はいずれも適法である。

四  本件各再決定の適法性

前記の原告の過少申告につき適正な理由は見出せないから、本件各再決定は、いずれも適法である。

五  結論

よつて、前記一部却下すべき部分を除いて、本訴請求は、理由なく、棄却すべきものである。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 裁判官 井上薫)

別表一

昭和52年分 課税処分の経過

<省略>

別表二

昭和53年分 所得税に係る課税経過表

<省略>

別表三

昭和54年分 所得税に係る課税経過表

<省略>

別表四

昭和55年分 所得税に係る課税経過表

<省略>

別表五

1.分離長期譲渡所得金額の内訳

<省略>

2.譲渡価格の内訳(公売分)

<省略>

別表六

<省略>

別表七

<省略>

昭和52年分賃貸料等の明細

<省略>

昭和53年分賃貸料等の明細

<省略>

昭和54年分賃貸料等の明細

<省略>

昭和55年分賃貸料等の明細

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例